「ありよりのなし」「なしよりのあり」
「ありよりのあり」。2016年頃からSNSで流行りだした若者言葉です。オンライン百科事典のWeblio辞書によれば、「ありよりのあり」、「ありよりのなし」、「なしよりのあり」、「なしよりのなし」と対比して用いられる一連の表現のひとつで、「あり」「なし」の2択において判定の微妙さを表わす言い回しだそうです。
税務訴訟も課税「する」「しない」の2択
そのような心情は、「課税するのか」「課税しないのか」という税務訴訟の中でも垣間見ることができます。例えば、贈与税について争われた「武富士事件」。日本国内に住所を有しない者は、国内財産のみに課税されるという当時の相続税法の制限納税義務者制度を利用して、子が国外に住所を移した直後に国外へ財産を移転し、その国外財産を親から子へ贈与したという事案です。
これに課税庁側は、1,330億円の課税処分を行いましたが、最高裁では、納税者勝訴となり、還付加算金などを含めて総額約2,000億円が還付されました。相続税法も見直され、新たに「非居住無制限納税義務者制度」を設けることになりました。
「課税の公平」から見れば「なし」だが…
この裁判は、納税者勝訴でしたが、裁判所は納税者の行為自体は、租税回避行為だったと判断しています。当時の裁判長は補足意見で次のように述べています。
「租税法律主義」から見れば「あり」
ただ、課税は法律を厳格に適用されるもので、明確な根拠がないのに、安易に拡張解釈や類推解釈をするべきものではありません。最終的には「一般的な法感情の観点からは少なからざる違和感も生じないではないけれども、やむを得ないところである」として納税者側の主張を認めました。つまり、「なしよりのあり」ということです。