従業員の高齢化に伴って人件費が増加し、赤字体質に陥ってしまう企業があります。
その原因は賃金制度が従業員の加齢とともに毎年昇給する年功賃金型となっているか、能力に応じて賃金を決定する職能資格制度を持っていても、実際の運用が年功的に行なわれている場合が多いと言えます。
人件費適正化の考え方と方法
人件費は従業員の働く意欲を維持、向上させる重要性から、単純に高齢者の賃金を抑制する考え方は適正とは言えません。
人件費を「コスト」と考えるのではなく、「人材に対する投資」と考え、年齢にかかわらず、能力活用を図って業績を向上させることで回収する考え方が重要です。
その方法として、次の人事賃金制度を設計、適用することを推奨致します。
① 社内等級制度を「仕事・役割」に基づいて設定し、対応する賃金体系を設定する。
ⅰ)定型的職務群(製造職など)は職務給をベースにして習熟給を組み合わせる体系
ⅱ)非定型的職務群(開発職・企画職など)は等級別の職務給をベースに、等級内で賃金額に幅をもたせて設定、等級間重複型賃金(下位等級の上限が、その上位等級の下部と重複する賃金設計。実力評価を反映しやすい)を行なう。
② 目標管理制度などにより、業績・能力を評価して、年功を排除した実力主義で社内等級・賃金を決定する。
③ 人件費の使い方が適正か否かを判断する基準は「人件費当りの利益」の増加(例えば「営業利益/総額人件費」の増加)の程度、人件費負担が適正か否かを判断する基準は「労働分配率」(=総額人件費/付加価値・80%以下が目安)とする。
経営者の留意点
高齢化と言う現象にとらわれず、全従業員を対象に「実力主義」の評価・処遇を徹底することが人件費対策の基本です。
高齢化による人件費の上昇で経営が危機的な状況にある場合、前述の人事賃金制度を準備して、個人別の再評価を実施し、現状から移行する非常措置をとらざるを得ないことがあります。
そのケースでは、労働条件の下方修正が生じるため、労働組合の有無にかかわらず、従業員への事前の説明を十分に行ない、納得を得ることが重要です。