「低価法」の網羅性の要求度はどこまで?
棚卸資産の低価法を適用した会社―特にその種類が多い会社―は「低価法の適用漏れがあったらどうなるのか?」と心配になることがあるかもしれません。
確かに、期末に存在する棚卸資産のすべてについて調査を行い、網羅性を確保するには多大な労力を要し、全購入品について低価の事実の発生の有無を判定することは事実上不可能といってもよいでしょう。
会計においては、会計方針として棚卸資産の評価基準に低価法を選択した場合に、「つまみ食い」的に低価法が適用されれば、「利益操作」につながるものと理解されています。金額的に重要性が低いものならば、さほど問題とされない場合もあると思いますが、「恣意的な運用をしていない」という環境を確保する意味で、ルール作りやマニュアルの継続的・安定的な運用を図りたいものです。
税務上全額が否認されないか?
一方、税務上の心配ごとは、「棚卸資産の一部に低価法の適用漏れがあった場合には、適用全体が否認されてしまうことはないのか?」ということだと思います。
実はこれについて、法人税においては法令にも、通達にも触れたものは何もありません。
一般には「低価法の適用全体が否認されることはない」と理解されています。
つまり、棚卸資産の一部について低価法の適用漏れがあったとしても、法人の所得金額と納税額が増えるだけです。法人が単に権利を放棄したというだけであって、法人が任意に評価損の損金算入を行わなかったものとして取り扱われるだけの問題となります。
申告時の減算調整はできるのか?
ここで法人税法における低価法については、特定の事実が生じた場合の評価減(会計上の強制評価減)と異なり、損金経理を要求していません。従って、会計で取り込まなかった低価法の評価損があった場合に、この洩れがあった評価損相当額を法人がその申告時に減算調整することは許容されているものと解されています(税務調査による減額更正は難しいでしょう)。