社会保険診療報酬と消費税の転嫁の問題
平成24年11月、兵庫県の4つの医療法人が、現行消費税法の仕入税額控除制度は憲法違反であるとして、国家賠償を求めていた裁判の判決が神戸地裁で出ています。医療機関の収入である社会保険診療報酬は、社会政策的な配慮から消費税は非課税とされています。一方で、非課税売上のために行った仕入に係る消費税額は、消費税の計算上控除することは認められていません。この控除できない仕入税額は、当然コストとなるため、一般企業では、売価に転嫁することで回収を図ることになります。
医療機関は「転嫁をしたくてもできない」
医療機関の場合、社会保険診療報酬は公定価格であるため、この転嫁を自由に行うことはできません。医療機関では、多額の控除対象外消費税が生ずるケースがよく見受けられますが、これは、消費税の仕組み自体が法の下の平等・財産権の侵害など憲法に違反しているのではないかというのが医療法人側の主張でした。消費税の非課税制度・仕入税額控除と診療報酬制度は、個々の制度としては合理的であったとしても、これらが組み合わさった結果、医療機関には、一般企業に比べて、不公平な「負担」が生じているということなのです。
地裁「法的負担でない」「報酬改定で考慮済」
この主張に対する裁判所の判断はNOでした。理由を噛み砕いて言えば、①消費税の仕入税額控除制度は、「税負担の累積防止」という計算技術的なものであり、消費税法では、仕入税額を「事業者の法的負担」とは位置付けていない、②医療法人と一般企業では、確かに「転嫁方法の区別」が生じているが、診療報酬改定により一定の考慮がなされているため、立法裁量として許容できる範囲であるということでした。
EUでは課税選択制度(オプション)がある
EUでは上記のような議論を、医業特有の問題とは捉えていません。EUの付加価値税では「仕入税額控除権」という請求権があり、課税適状となった時点で行使することができます。非課税売上に対応する仕入税額が控除できず、事業者が不利益を被る場合には、その売上を非課税とする取扱いを放棄して、課税取引を選択することで、仕入税額控除権の行使ができる制度(課税選択制度)が設けられています。