税理士が源泉徴収の必要を提起
平成30年6月、長崎地裁で、解雇和解金の源泉徴収をめぐる判決がありました。
事案は、弁護士事務所職員予告解雇事件で、まず、予告解雇無効と合意退職和解と解決金支払いとが和解事項となったという事実が前提にあり、次いで、解決金の支払いに際して退職金との認定リスクを想定して源泉徴収をしたという事実があり、その後その源泉徴収に対して全額弁済せよとの強制執行訴訟が提起され、強制執行が認められています。源泉徴収の必要をアドバイスしたのは税理士でした。
源泉徴収への加重強制
国税収入の最大の税収項目は平成26年以降消費税で、2番目は源泉徴収所得税ですが、それ以前は常にトップは源泉所得税でした。そのためか、申告納税の税収よりも源泉徴収の税収の方が国の財政を支えている、という認識が多く共有されています。
そして、源泉所得税の徴収不足には、延滞税の外に1日遅れただけでも10%又は5%の不納付加算税が課せられる、というように、この制度の国民的受容に対し強制的補強もなされています。
その上、当局には源泉徴収の間違いに対して更正決定の権限があるので、源泉徴収不足額に対して源泉徴収義務者から一方的に徴収することになり、その徴収された税額のその後の回収可能性は保証されておりません。そのため、源泉徴収義務者は、源泉徴収すべきか否かについて過敏になりがちです。
税理士的発想と判決
判決は、和解条項に「解決金」や「和解金」等と記載された場合、その金員には多様なものが含まれており、当事者間でその法的性質の認識の一致をさせず、また和解条項にそれらが表現されていない以上、解決金の全部又は一部が退職所得の性質を有していたと認めることはできない、としました。
本事例は、源泉徴収をした結果、余計な訴訟費用を負担することになり、原告被告双方が迷惑を被り、その発端がリスク予防としての税理士の意見だった、ということに同業者として衝撃を受けます。税理士的発想として異例なことではないからです。税務調査で源泉税の追徴を受けたらその分を返済する、との書面約束を訴訟の中で要求してもいるのですが、無視されています。