法人株の究極の相続対策
株式価値の高い父親経営の同族会社を、息子が新規の会社を設立し、そこに吸収合併させ、無償消滅させてしまう、という相続対策は、適格組織再編として課税関係が生じませんでした。この行為は無対価組織再編と言われるものです。
100%親族グループの場合での適格組織再編の要件は、株式以外の資産の交付がないこと、というのがほとんどの内容です。そうすると、株式そのものの交付もしない『無対価』の組織再編は、この要件からして「適格」に該当してしまいます。
大会社のグループ内再編では無対価組織再編は通常のことで、会計基準もあります。ただし、税法については特に規定がありませんでした。平成22年の改正によってはじめて『無対価』という明文の規定創設がされたところです。
22年に打たれた封じ手の処方箋
平成22年の創設規定は、それまで野放しだった無対価の適格組織再編について、その要件を厳しく制限しました。制限外のものは、その後は非適格になることになりました。その境目は、通常の適格組織再編では、あり得ないと言われていた非按分型(株主構成が変わる)適格組織再編が実質的に可能になっていたところの遮断でした。
改正規定中の最も典型的なものは「一の者」という言葉です。これに触れている解説書は皆無だったのですが、この言葉は法律と政令に100回近く出現します。平成22年改正前の法律では例外なく、個人の場合は「一の者」の後に()書きをつけて、同一親族グループを意味するものにしていました。それ以後の法律では、組織再編の場面ではことごとく()書きのない「一の者」になっています。
封じ手処方箋の解説が公開
まったく説明されてこなかったところなのに、改正から2年経過した今年の3月に、国税庁は突然ホームページで、質疑応答事例として「無対価合併に係る適格判定について(株主が個人である場合)」を公表して、「一の者」に掛る()はずしの意味を解説しました。
多くの無対価組織再編の事例の中で、実際に、非按分型を実行した例は極く少数だったと思われます。意識的に節税策に使われる前に、ほとんど未知のまま封じ手を打ったことの解説のように見受けられます。