負担していない保険料の控除可否
養老保険の満期がきたので、満期保険金を受け取り、確定申告をした人がいます。個人が受取った満期保険金は、一時所得として所得税・住民税の課税を受けることになります。一時所得では「収入を得るために支出した金額」は必要経費となります。
その保険が会社契約で、保険料の半分が会社負担であった場合、個人の一時所得の計算上、その会社負担保険料を必要経費として控除できるか、否か? どちらか?
税務署と納税者の主張
この疑問をめぐる税務訴訟がありました。税務署は、一時所得の計算上控除されるのは、本人が負担した保険料と給与課税された保険料に限られ、本人が負担していない保険料を控除することはできない、との解釈論を展開しました。
納税者は、法律の規定では、誰が支出したかは問うていないから、会社負担でも控除できるはずで、税法通達にもその旨書いてある、と主張しました。
地最と高裁の判決
理論的には、税務署の言う通りであるが、法律政令通達は、その理論通りの規定になっておらず、会社負担保険料を控除できないものと読みとることはできない、として納税者の主張を認めました。
最高裁の逆転判決
訴訟での負けを予測して、国税庁は、平成23年度税制改正で、会社負担分は控除不可と政令を変えたところでした。
ところが一転して、最高裁は、一時所得の必要経費たる「支出した金額」とは、個人の担税力を図る趣旨のものであるから、収入を得た個人が自ら負担したものに限る、との解釈で納税者敗訴としました。
文理解釈で判決していた地裁・高裁とは異なり、最高裁は趣旨解釈での判決にしました。政令改正は不必要だった訳です。
予測可能性を許さない最高裁
この最高裁判決を下した裁判官は、武富士贈与税回避事件、損益通算禁止遡及適用違憲事件の最高裁判決と同一人です。
武富士事件では、趣旨解釈することを拒否して、国外長期滞在が贈与税回避目的であったとしても、法の解釈には限界があり、立法的対処しかない、としていました。
判決ごとに最高裁の姿勢が異なり、多分、当局側も最高裁判決は予測困難さを増幅していると見ているのではないでしょうか。